最初に必ずお読みください
本記事は運営者の実体験の記録であり、復帰の方法を指導するものではありません。けがの種類、程度、経過は一人ひとり違います。復帰の可否と時期は、必ず医師の判断に従ってください。
特に頭部への衝撃を伴うけがは注意が必要です。日本臨床スポーツ医学会「頭部外傷10か条の提言」では、脳振盪の後すぐにプレーへ戻ってはいけないこと、競技復帰の判断は専門医または脳振盪に精通した医療スタッフに相談する必要があることが示されています。
頭を打った後に頭痛、吐き気、めまい、ぼんやりする、記憶がはっきりしないなどの症状がある場合は、練習に戻らず医療機関を受診してください。意識が戻らない、けいれん、繰り返す嘔吐、手足が動かしにくい、強い首の痛みがある場合は、直ちに救急要請してください。
私は組手中に、顎を骨折し、頭を4針縫うけがをしました。
顎は入院し、全身麻酔の手術を受けています。組手ができなかった期間は、顎で約3ヶ月、頭で約1ヶ月でした。
この記事では、その間に何をしていたか、どう戻ったか、そして自分の復帰の仕方をどう評価しているかを書きます。
先に書いておきますが、私の復帰の判断の仕方は、人に勧められるものではないと思っています。その理由も後半に書きます。
先に結論
- 組手中に顎を骨折(入院・全身麻酔の手術)、頭を4針縫合
- 組手ができなかったのは顎で約3ヶ月、頭で約1ヶ月
- 入院中にやっていたのは格闘技の動画を見ることだけ
- 動けるようになってからはストレッチ → ジョギング → 筋トレ・ランニングと段階的に強度を上げた
- 稽古には徐々に参加。組手など激しい稽古は見学していた
- 復帰の判断は、医師の話を聞きながら最終的には自分でしていました。これは推奨できません
- 戻って落ちていたのは体力と感覚。私の場合は復帰後1ヶ月ほどで戻った
- 再発防止で変えたのは顔面のガードをより意識すること
- 怪我をきっかけに辞めていった人もいます
何が起きたか
組手中のけがです。顎の骨折と、頭部の裂傷(4針)。
顎は入院して、全身麻酔の手術を受けました。頭は縫合で済んでいます。組手ができるようになるまでは、顎で約3ヶ月、頭で約1ヶ月かかりました。
書いていて改めて思いますが、これは軽いけがではありません。格闘技をやる以上、こういうことは起こり得ます。組手の安全については組手・スパーリングの心得と安全にまとめていますが、防具や配慮があっても、けがを完全に防ぐことはできません。
入院中にやっていたこと
格闘技の動画を見ていました。
それだけです。体は動かせないので、他にやることがありませんでした。
こう書くと消極的に見えるかもしれませんが、何もできない時期に、格闘技から意識を切らなかったことは、後から考えると意味があったと思っています。
ただし、これは私の実感です。人によっては、けがの時期に一度距離を置いた方がいい場合もあります。
動けるようになってから:段階的に強度を上げた
軽い運動ができるようになってから、こう進めました。

| 順番 | 内容 |
|---|---|
| 1 | ストレッチ |
| 2 | ジョギング |
| 3 | 筋トレ・ランニング |
| 4 | 稽古に徐々に参加(組手など激しい稽古は見学) |
いきなり元の強度には戻していません。ストレッチから始めて、少しずつ上げています。
稽古については、参加できる部分から徐々に入り、組手など強度の高い部分は見学していました。なお、見学だけのために道場へ行くことはしていません。参加できる内容があるときに行き、その日の組手の時間は見ていた、という形です。
柔軟の進め方は格闘技の柔軟性を高める方法、走り込みは格闘技のスタミナの付け方にまとめています。
やらなかったこと
- 組手など、強度の高い稽古
- けがが悪化するようなこと全般
当たり前に見えますが、この時期に無理をする人は実際にいます。早く戻りたい気持ちは分かります。ただ、悪化させれば復帰はさらに遠くなります。
復帰の判断について:ここは推奨できません
ここが、この記事で一番書いておきたい部分です。
私は、医師の話を聞きながら、最終的な判断は自分でしていました。
そして治療を終え、自分では戻れると思った段階で組手に復帰しました。しかも、戻ったその日から通常の組手をしています。周りには心配されましたが、「大丈夫です」と自分で言って入りました。
この判断の仕方は、推奨できないと思っています。
理由は2つあります。
1つ目。私は自分の状態を客観的に評価できる立場にありませんでした。早く戻りたい人間が「もう大丈夫か」を自分で判断すれば、答えは偏ります。
2つ目。頭部への衝撃を伴うけがだったからです。私は顎を骨折し、頭を縫っています。組手中に、頭部に相当な力がかかったということです。
なお、私は脳振盪の診断は受けていません。ただし、診断がなかったことと、頭部に力がかかっていなかったことは別です。だからこそ、本来は自分ではなく医療者に判断してもらうべき場面でした。
現在の推奨は明確です。日本臨床スポーツ医学会の「頭部外傷10か条の提言」では、脳振盪の後すぐにプレーに戻ってはいけないこと、繰り返し受傷しないよう注意が必要なこと、そして競技復帰の判断は専門医または脳振盪に精通した医療スタッフに相談すべきことが示されています。
米国CDCの案内でも、頭部外傷後の復帰は段階を踏んで進め、各段階で症状が出ないことを確認しながら、医療者の許可のもとで行うこととされています。
「完治した」「もう大丈夫」を自分で決めてはいけない、ということです。私はそれをやりました。結果的に問題は起きませんでしたが、それは結果論です。
参考資料:
- 頭部外傷10か条の提言(日本臨床スポーツ医学会)
- Returning to Sports(CDC HEADS UP)
- What to do After a Concussion(CDC HEADS UP)
一方で、強度を段階的に上げる考え方は、現在の復帰原則と共通します
判断の仕方は推奨できませんが、ストレッチ → ジョギング → 筋トレ → 稽古の一部参加と強度を上げていったこと自体は、考え方としては現在の復帰原則と共通します。
ただし、私が行った順番や期間が、別のけがにもそのまま当てはまるわけではありません。
問題だったのは「進め方」ではなく、「誰がゴーサインを出したか」です。ここを取り違えないでください。
補足:捻挫や打撲では「PEACE & LOVE」という考え方も提唱されています
私のけがは骨折と裂傷でしたが、格闘技で多いのは捻挫や打撲です。この点について、知っておくと役に立つ情報があります。
長く「RICE処置」(安静・冷却・圧迫・挙上)が広く知られてきました。これに対し、2019年にBritish Journal of Sports Medicineで「PEACE & LOVE」という考え方が提唱されています。
要点は、長すぎる安静を避け、状態に応じて負荷や運動を段階的に戻すことを重視するという点です。冷却については、有効性を示す質の高い根拠が乏しく、組織の修復を妨げる可能性が論じられています。PEACE & LOVEには、RICEにあった「Ice(冷却)」が含まれていません。
ただし、これは学術誌に掲載された提言(エディトリアル)であり、すべての捻挫・打撲でRICEが一律に置き換わったというものではありません。個別の診断や治療指示に代わるものでもありません。
そしてこれは軟部組織のけがについての考え方です。骨折、頭部外傷、強い痛みや変形を伴うけがはまったく別で、まず医療機関を受診してください。自己判断で対応する範囲ではありません。
参考資料:
戻って、何が落ちていたか
組手に戻って、落ちていたのは2つでした。
- 体力
- 感覚
技術そのものを忘れるわけではありません。ただ、動き続けるための体力と、間合いや反応の感覚が鈍っていました。
これは休めば当然そうなります。焦る必要はありませんが、戻った直後の自分は、休む前の自分ではないという前提でいた方がいいと思います。
そして、1ヶ月後に起きたこと
復帰から1ヶ月ほど経ったころ、感覚が戻ってきました。
そのとき、それまで「強い」と思っていた人が、強く感じなくなっていました。
離れていた側の私が、上がっていた。
理由は特定できません。組手ができない間、体づくりに時間を使えたからかもしれない。組手から離れて、見え方が変わったのかもしれない。因果は分からないので断定はしません。
ただ、この経験から言えることが1つあります。
「組手ができない期間=止まっている期間」ではありません。
できることをやっていれば、戻ったときに位置が変わっていることがあります。この話は空手で伸びる人と伸びない人の差にも書きました。
再発防止で変えたこと
同じけがは、その後繰り返していません。変えたのは1つだけです。
顔面のガードを、より意識するようになりました。
技術的に複雑なことではありません。もらった場所を守る。それだけです。けがをして初めて、そこが自分の弱点だったと分かったということでもあります。
一方で、怪我をきっかけに辞めていった人もいます
これは書いておかなければフェアではありません。
私の周りには、怪我をきっかけに辞めていった人がいます。
全員が戻ってくるわけではありません。体の問題もあれば、気持ちの問題もあります。戻れないこと、戻らない選択をすることは、失敗ではありません。
続かない理由については空手が続かない理由にまとめました。怪我は、続けるかどうかの分岐点になり得ます。
だからこそ、怪我をしないための管理と、してしまった後に悪化させないことが重要です。復帰を急いで再発すれば、次はもっと長く離れることになります。
今、怪我で稽古に行けない人へ
最後に、これだけ書きます。
今は怪我をして辛いかもしれません。
ただ、「あの怪我を経験したおかげで強くなれた」と後から思えるようになるために、今できることをやるべきだと思います。
私は入院中、格闘技の動画を見ることしかできませんでした。それでも、できることではありました。
私の場合は、医師の話を聞き、動ける範囲を確認しながらストレッチから始めました。何から再開できるかは、けがの種類と治り方によって異なります。ストレッチが適さないけがもあります。
ただし繰り返しますが、戻る時期は自分で決めないでください。そこだけは、私と同じことをしないでほしいと思っています。
まとめ
- 組手中に顎を骨折(入院・全身麻酔の手術)、頭を4針縫合。組手不可は顎3ヶ月、頭1ヶ月
- 入院中は格闘技の動画を見ることだけしていた
- 動けるようになってからストレッチ → ジョギング → 筋トレ・ランニングと段階的に上げた
- 稽古は参加できる部分から徐々に。組手は見学。見学だけのためには行かなかった
- やらなかったのは強度の高い稽古と、悪化させること
- 復帰の判断は自分でしていた。これは推奨できません
- 脳振盪の診断は受けていない。ただし診断がないことと、頭部に力がかかっていないことは別
- 頭部外傷後の復帰は、専門医または脳振盪に精通した医療スタッフに相談することが提言されている
- 段階的に強度を上げた点は妥当。問題は「誰がゴーサインを出したか」
- 捻挫・打撲では「PEACE & LOVE」という考え方も提唱されている(提言であり一律の置き換えではない)。骨折・頭部外傷は別で受診が先
- 戻って落ちていたのは体力と感覚。私の場合は復帰後1ヶ月ほどで戻った
- 再発防止で変えたのは顔面のガードを意識すること
- 怪我をきっかけに辞めた人もいる。戻らない選択も失敗ではない
参考資料について
本記事は運営者の実体験に加え、公開されている専門団体・公的機関の資料を参照しています。けがの種類・程度・経過は個人によって大きく異なり、本記事の経過が他の方に当てはまるものではありません。復帰の可否と時期は必ず医師の判断に従ってください。

