組手や試合の前になると、足が動かない。お腹が痛くなる。前の夜は眠れない。いざ始まると動きが固い——。私は伝統派空手1年・極真空手約15年(全国大会出場)・キックボクシング2年(アマチュア3戦3勝)を経験しましたが、この緊張は今でも消えるものではないと思っています。
ただ、経験を重ねて分かったことがあります。緊張は必ずしも敵ではありません。私の場合、適度な緊張があると集中しやすく、普段以上の力を出せたと感じる試合もありました。この記事では、緊張で動けなくなる原因と、私が実際にやってきた対処を正直に書きます。
この記事について
本記事は運営者の実体験にもとづく一般的な情報で、医療や心理療法の専門的助言ではありません。緊張の感じ方や有効な対処には個人差があります。日常生活に支障が出るほどの強い不安、動悸や過呼吸、不眠が続く場合は、我慢せず医療機関や専門家に相談してください。実際の練習・試合での判断は、所属する道場・ジムの指導者の指示に従ってください。
私が実際に感じていた緊張
試合前、私が感じていたのは大きく2つです。ひとつは単純な恐怖。もうひとつは「練習してきたことを出し切れるだろうか」という不安でした。
体には、こんな形で出ていました。
- 足が動かない
- お腹が痛くなる
- 前の日に眠れない
- いざ始まると動きが固い
これは気持ちの弱さではありません。強い緊張やプレッシャーの下では、呼吸が浅くなる、筋肉がこわばる、注意が散漫になるといった変化が起こることが知られています。体が勝手にそうなるものだと理解しておくだけでも、少し楽になります。
15年やっても緊張は消えなかった。でも——
正直に言うと、経験を積んでも緊張は消えません。全国大会に出た頃も、キックの試合でも、緊張はしていました。
ただ、私の実感として言えるのは、緊張がまったくない試合は良い結果にならなかったということです。私の場合、適度な緊張があると集中しやすく、普段以上の力を出せたと感じる試合もありました。一方で、緊張が高すぎるときは動きが固くなりました。ですから、緊張をゼロにするのではなく、自分に合う状態へ調整することが大切だと考えています。場数を踏むと、慣れてくる部分もあります。
スポーツ心理の考え方でも、緊張や興奮のレベルは高すぎても低すぎてもパフォーマンスが下がるとされ、競技や個性に合った状態にもっていくことが重要だと説明されています(高すぎればリラクセーション、低すぎればサイキングアップ)。つまり、目指すのは「緊張をゼロにすること」ではなく「ちょうどいい緊張に調整すること」です。
なお、最適な緊張の水準には個人差が大きく、高い不安のもとで力を発揮する選手もいることが指摘されています。自分にとってのちょうどいい状態は、自分で見つけるしかありません。
ただし、ここで挙げた研究は射撃競技を対象としたもので、空手の組手を直接調べたものではありません。結果をそのまま組手へ当てはめることはできず、緊張とパフォーマンスの関係を考える参考資料として紹介しています。
参考資料:
- メンタルトレーニング技法(ハイパフォーマンススポーツセンター/JISS)
- The inverted-U relationship between stress and performance in elite shooting(Scientific Reports, 2025)
「動けない」のはなぜか——4つの原因
私の経験と、道場で人を見てきた実感から、体が固まる原因は次のようなものだと思います。
1. 練習不足の自覚
一番大きいのはこれかもしれません。やってきたという実感がないと、本番で足が止まります。逆に言えば、準備そのものが緊張への対処になります。
2. 自信のなさ
1と重なりますが、「自分にできるだろうか」という気持ちがあると、動きが縮こまります。
3. 相手を強く見てしまう
実際以上に相手が大きく、強く見えてしまう。始まる前から気持ちで負けている状態です。
4. 痛みへの恐怖
打撃系である以上、これは自然な感情です。特に打たれ慣れていない時期は強く出ます。
正直に補足すると、私は普段の道場の組手では緊張しませんでした。こうした感情が出るのは、格上の相手と組むときや試合です。だから「普段は平気なのに、強い人とやると固まる」というのは、決しておかしなことではありません。
私がやっていた対処法
深呼吸をする
まずは呼吸です。緊張すると呼吸は浅くなりますが、呼吸は自分の意思で変えられる数少ないものです。JISSの資料では、鼻からお腹をふくらませるように吸い、吸うときの倍くらいの時間をかけて口からゆっくり吐く方法が紹介されています。試合会場で使うには、日頃から練習しておくことが必要だとされています。
体を動かして温める
じっとしていると、緊張は増していきます。私は体を動かして温めるようにしていました。
私の場合:試合前に一度、心拍を上げる
これは私が特に効果を感じていた方法です。試合の前にランニングやダッシュで心拍を上げておくと、体のスイッチが入り、動きの固さが取れました。
ただし、これは競技経験を積んだうえでの私のやり方です。取り入れる場合は、試合開始時に疲労が残らない強度とタイミングで行ってください。限界まで追い込む必要はありません。めまい、胸の痛み、異常な息苦しさなどがあれば直ちに中止し、体調に不安がある場合は事前に医師へ相談してください。
心拍や体温を上げて気分を高めることはサイキングアップと呼ばれ、JISSの資料でも「まずウォーミングアップによってある程度心拍数や体温を上げておくことが大切」と説明されています。限界まで追い込むことを勧めるものではありません。緊張して固まるタイプの人には、じっと座って待つより有効な場合があります(強度は体調と競技に合わせて調整してください)。
「練習してきたから大丈夫」と言い聞かせる
自分に言葉をかけます。これはスポーツ心理でいうキューワード——狙いとする心の状態を引き出す手がかりの言葉——に当たります。「この1本に集中」「自分は自分」のように、あらかじめ決めておくのがポイントです。
「相手も緊張している」と考える
相手を強く見てしまうときに効きます。相手も緊張している可能性があります。相手の内面は分かりませんが、「緊張しているのは自分だけではない」と考えることで、必要以上に相手を大きく見ずに済むことがあります。それだけで肩の力が抜けます。

本番で動けるようにするための準備
対処法よりも根本的なのは、準備です。私が大事だと思うのは次の3つです。
- 得意技を決めておく:これで勝負するという形を持っておく
- 「これが来たらこう返す」を反復する:考えなくても体が動くまでやる
- 場数を踏む:格上との組手は、それ自体が経験値になります
本番で考えている余裕はありません。だからこそ、考えずに体が動くところまで反復しておく。この準備が「練習してきたから大丈夫」という自信の中身になります。
加えて、イメージトレーニングも有効とされています。リラックスして目を閉じ、動作や試合場面をできるだけ リアルに(視覚だけでなく体の感覚も含めて)思い描く方法です。最初は1〜2分から始め、徐々に時間を伸ばすとよいとされています。
格上と組むときの心構え
強い相手と組むのが怖いとき、私が持っていた考え方はこれです。
練習なのだから、勝ち負けは関係ない。自分の全力を出すことが相手への礼儀でもあり、自分のためにもなる。
勝とうとすると縮こまりますが、「全力を出す」ことを目標にすれば、やることがはっきりします。相手にとっても、手を抜かれるより全力で来られるほうが練習になります。あとは、普段のイメージと反復、そして場数です。
もちろん、強度は指導者の管理のもとで調整すべきです。恐怖を我慢して無理に強い組手を続ける必要はありません。不安があるときは指導者に伝えてください(道場選びの観点は30代から空手を始めるのは遅いか?もどうぞ)。
緊張して動けない人へ
最後に伝えたいことです。
緊張するのは、真剣に取り組んでいる証拠です。どうでもいいことに人は緊張しません。そして、準備をしてきたなら大丈夫。私の経験では、適度な緊張があるときのほうが集中できました。
緊張を消そうとしなくていい。付き合い方を覚えていけば十分です。
組手の進め方や安全面は組手・スパーリングの心得と安全もどうぞ。
まとめ
- 緊張は経験を積んでも消えない。ゼロにするのではなく、自分に合う状態へ調整する
- 足が動かない・腹痛・不眠・動きが固いのは、体の自然な反応
- 固まる原因は、練習不足の自覚・自信のなさ・相手を強く見る・痛みへの恐怖
- 対処は、深呼吸/体を温める/心拍を上げる(疲労を残さない範囲で)/決めた言葉で言い聞かせる/相手も緊張していると考える
- 根本は準備。得意技を決め、「来たらこう返す」を考えずに動けるまで反復し、場数を踏む
- 格上とは「勝ち負けではなく全力を出す」。強度は指導者と相談して
スタミナ切れも動けなくなる原因になります(格闘技のスタミナの付け方)。打たれる怖さについては打たれ強さは鍛えられるか?もどうぞ。
参考資料について
本記事は運営者の実体験に加え、公開されている公的機関の資料や研究を参照しています。緊張への最適な対処には個人差が大きく、内容は更新される可能性があります。強い不安や不調が続く場合は、専門家に相談してください。

